消滅時効の援用とブラックリスト
借金の返済を数ヵ月延滞すると信用情報に「延滞」と記載されます。
これがいわゆるブラックリストに載った呼ばれるものです。
これを解消するには借金を完済するのが原則です。
ただし、完済した場合でも一度、延滞という事故情報が載ると5年程度は事故情報が残ったままとなりますので、完済してからと言ってすぐに消えるわけではありません。
消滅時効の援用をした場合には、この事故情報がどのようになるかが問題です。
これについては、一律に事故情報が消えるとも消えないとも言えないのが現実です。
といいますのも、消滅時効の援用をすると、法的には借金の支払義務がなくなりますが、借金自体は依然として存在し続けるという考えもあります。
これはどういうことかと言えば、支払義務はないけれども債務者が任意に債権者に返済をすることはできるというわけです。
債権者としては消滅時効を援用された後は、法的な支払義務がなくなるので請求はできなくなるのですが、債務者が好意で借金を返済するといえば、借金自体は存在するので受け取ることができるという考えです。
こういった債務を法律用語で自然債務と言います。
自己破産をした場合も同じ考えです。
つまり、自己破産が認められると、法的な支払義務は免れますが、依然として借金は自然債務として残っています。
よって、もし、借金の中に家族や親族からの借入れが混じっているような場合は、自己破産が認められた後に家族や親族の借金だけを任意に返済するということは珍しくはありません。
これは、自己破産の手続き中は特定の債権者にだけ返済をすることが禁じられているため、家族や親族からの借入だけを優先して返済することができないからです。
そのため、自己破産の手続き後に自然債務となった家族や親族の借金だけを払えるときに支払っていくということがあり得るわけです。
なお、消滅時効を援用した場合の借金については、自己破産と同様に自然債務となるという考えの他に、借金自体が完全に消滅するという完全消滅説もあります。
このように自然債務説と完全消滅説の2つがあるため、消滅時効を援用した後の借金についてはどちらの解釈も成り立ちます。
よって、もし、貸金業者が自然債務説を採用しているのであれば、たとえ消滅時効の援用をしても、法的な支払義務はなくなりますが、依然として借金自体は存在し続けているため、債務者による延滞状態が続いていると考えられなくなくもありません。
借金の延滞が続いている以上は貸金業者も信用情報機関に対して、何も報告しないという対応を取ることがあり得ます。
そうなりますと、たとえ消滅時効の援用をしたとしても、信用情報自体はずっと事故情報のままということがないわけではありません。
これに対して、完全消滅説の考えに立てば、消滅時効の援用により借金が完全に亡くなったので、信用情報機関にもその旨を報告し、事故情報が消えることになります。
なお、多くの貸金業者は日本信用情報機構(JICC)とシーアイシー(CIC)に加盟していることがほとんどですが、日本信用情報機構では会員企業から消滅時効の援用があったとの報告があれば、ファイルごと削除し信用情報自体が抹消しているようです。
これに対して、シーアイシーでは会員企業が消滅時効の援用により貸し倒れという報告をすれば、そのとおり貸し倒れという情報を記載し、契約終了という報告をすればそのとおりの情報を掲載しているようです。
いずれの場合でもその後5年間は情報が掲載されるとのことなので、消滅時効の援用から5年後には事故情報が消えることになります。
ところで、借金を数年も延滞していると債権者が債権回収会社に譲渡している場合は珍しくありません。
この場合、信用情報には「移管終了」と記載され、最新返済日には債権が譲渡された日が記載されます。
よって、信用情報を取り寄せて最新返済日の欄に記載されている年月日が5年以内であっても、消滅時効の援用ができる場合があります。
また、債権回収業者は信用情報機関の会員企業ではありませんので、債権譲渡から一定期間が経過すると、信用情報自体が削除されることがあります。
そうなると借金はあるにもかかわらず、信用情報を取り寄せても何も情報が載っていないという事態が生じることがありますが、たとえ信用情報が何もなくても、それがイコール借金がないというわけではありませんのでご注意ください。
もし、借金を調べようとして信用情報機関に照会したが見方がよくわからないという方は千葉の稲毛司法書士事務所までお気軽にご相談ください。
【参考】