相続登記の期限

不動産の名義変更に期限はあるのか

相続税の申告は10ヶ月以内におこなわなければいけませんが、相続登記に法律上の期限はなく、また罰則もありません。

そのため、土地や建物、マンションなどの所有者が亡くなったにもかかわらず、何十年も名義変更をおこなっていないことも珍しくありません。

これは相続による不動産の名義変更には期限も罰則もないので、わざわざお金をかけてまで名義変更をしなくてもよいと考えているためだと思われます。

しかし、以下のとおり、相続登記をしなかった場合のデメリットは多数あるので、相続が開始したらなるべく早めに名義変更の手続きをおこなうべきです。

相続登記をしないことのデメリット

☑ 不動産を売ったり、担保に入れることができない
☑ 二次相続が発生し、権利関係が複雑になる
☑ 相続人の高齢化により、遺産分割協議が困難になる
☑ 戸籍や住民票の除票などが取れなくなる
☑ 他の相続人が勝手に不動産を処分してしまう可能性がある

被相続人名義の不動産を売却したり担保に入れるには

土地や建物、マンションなどの不動産の所有者が死亡した場合、相続人が当該不動産を売却して現金化を希望するケースは珍しくありません。

しかし、売買による所有権移転登記をするにしても、被相続人名義からいきなり相続人以外の第三者の名義に変更することはできず、まずは売買による所有権移転登記の前提として相続人名義に変更したうえで、相続人名義から第三者である買主名義に変更するという手順を踏まなければいけません。

<被相続人名義の不動産を売却する手順>

被相続人名義 ➡ 相続人名義  ➡  第三者名義
登記の手順  ➡ (相続登記) ➡  (売買登記)

また、相続人が被相続人名義の不動産を担保に銀行からお金を借りたい場合、銀行が不動産に抵当権を設定することになりますが、その際も不動産の名義が被相続人のままだと抵当権を設定することができないので、手順としては不動産の名義を被相続人から相続人名義に変更してから、抵当権設定登記を申請します。

二次相続の発生による権利関係の複雑化

二次相続の発生というのは、当初の相続人が相続登記をしないうちに死亡してしまうことです。例えば、被相続人Aの相続人が妻B、長男C、次男Dの3人だったとします。

B、C、Dの3人の間では、不動産は妻B名義にするとの口約束ができていましたが、実際に名義変更の手続きはしていませんでした。

その後、次男Dが急死したとします。なお、次男Dの相続人は妻E、子F、子Gの3人です。3人の相続人のうち子F、子Gの2人は妻Bへの名義変更を了承しているのですが、妻Eは反対です。

こうなると、もはや当初の約束どおり、遺産分割協議でB名義に変更するのは困難となり、Eが賛成しない限りはB名義への相続登記もできません。

二次相続の発生による権利関係

こんなことになるのであれば、BはDが亡くなる前に相続登記をしておけばよかったと後悔するのですが、今となっては後の祭りです。

上記の例では、相続人の人数はまだ5人ですが、場合によっては相続人が一気に10人以上に増えてしまうこともあります。

そうなると権利関係がより複雑になるので、当然、遺産分割協議がまとまりにくくなります。

<ここがポイント!>
☑ 二次相続が発生すると芋づる式に相続人が増えて、権利関係が複雑になる

相続人の高齢化

相続登記をしないまま放置しておくと、その分だけ相続人も年をとります。

単に年をとっただけであれば特に問題ないのですが、もし、判断能力が衰えてしまった場合は、当該相続人は遺産分割協議に参加することができなくなります。

なぜなら、相続人が認知症などによって判断能力を失った場合は、当該相続人に成年後見人を付けなければいけないからです。

もし、成年後見人を選任しないまま遺産分割協議をおこなっても法律上は無効となります。これは、当該相続人を除外しておこなった遺産分割協議も同様です。

よって、相続人の中に認知症などによって判断能力がなくなった相続人がいる場合には、家庭裁判所に成年後見人選任の申し立てをして、その成年後見人を当該相続人の代理人として遺産分割協議に必ず参加させなければいけません。

なお、成年後見人は認知症などにより判断能力が衰えた当該相続人の財産を維持管理するのが仕事なので、後見人が遺産分割協議に参加してきた場合、最低でも当該相続人の財産を守るために必ず法定相続分以上を要求してくるのが原則です。

よって、仮に、判断能力が亡くなる前に相続人自身が遺産はいらないと言っていたとしても、後見人が選任された以上は、少なくとも法定相続分を与える必要があります。

<ここがポイント!>
☑ 相続人の判断能力が衰えた場合は成年後見人を付けなければ遺産分割できない

戸籍謄本などの保存期間

遺言書がない場合の相続登記では、被相続人の出生から亡くなるまでの戸籍謄本(除籍謄本、改正原戸籍)が必要になります。そこで、戸籍謄本の保存期間が問題となります。

この点、平成22年の戸籍法の改正により、保存期間が150年に大幅延長されましたが、改正されるまでの保存期間は50年もしくは80年でした。

そのため、相続登記が遅れるとその分だけ除籍謄本、改正原戸籍が消去されてしまう危険があったわけです。現在でも被相続人の住民票の除票については相続開始から5年で取得できなくなります。

住民票の除票は、登記上の住所と被相続人の住所を一致させるために必要な書類です(住所変更登記はこちら)。

もし、住民票の除票で登記上の住所と被相続人の住所が一致しない場合は、戸籍の附票や改製原戸籍の附票を取り寄せる場合もありますが、いずれの保存期間も5年です。

相続開始後5年以上が経過し、公的な書類上では登記上の住所と被相続人の住所が一致しない場合は、不在籍・不在住証明書、当該不動産の権利証、相続人全員の上申書が必要になることがあります。

そうなれば、その分だけ事務作業が増え、費用もかかってしまいます。

<ここがポイント!>
☑ 戸籍法の改正により、戸籍謄本などの保存期間は150年に延長された
☑ 住民票の除票、戸籍の附票、改正原戸籍の附票の保存期間は5年のまま

他の相続人による処分の危険性

相続による名義変更をする場合、遺産分割協議が成立してから相続登記をするのが一般的です。

しかし、手続き上は遺産分割前であっても、法定相続分どおりの相続登記であれば、相続人1人で申請できるのです。

そのため、相続登記をしない間に、お金に困っている他の相続人が知らない間に相続登記をして、自分の相続分を第三者に売却してしまう可能性もゼロではありません。

また、すでに自分1人が不動産を相続するという内容の遺産分割協議が成立している場合であっても安心はできません。

なぜなら、たとえ遺産分割協議が成立していても、相続登記をしないでいるうちに、他の相続人が勝手に法定相続分どおりの相続登記をして、自己の持分を第三者に売却した場合、そのような処分も基本的には有効となるからです。

<ここがポイント!>
☑ 相続登記をしないでいると他の相続人が自己の相続分を勝手に処分する危険がある

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