相続人不存在(相続人がいない場合)
相続人不存在とは
相続人不存在というのは、被相続人が死亡したにもかかわらず、相続人が存在するのかどうかが明らかでない場合のことです。
なお、初めから相続人がいない場合だけでなく、相続人全員が相続放棄をした場合も含まれます。
たとえ、相続人が不存在であっても、被相続人の財産を整理する必要があるため、相続人が不存在の場合は、家庭裁判所が相続人の捜索と相続財産の管理、清算をおこないます。
<ここがポイント!>
☑ 相続人全員が相続放棄した場合も相続人不存在となる
相続人不存在が確定すると
相続人不存在の場合、家庭裁判所に相続財産管理人選任の申立てをおこないます。
これにより、相続財産を管理するための相続財産管理人が選任され、相続債権者、受遺者に対して、債権の申出をなすべき旨の公告を経て、相続人捜索公告の期間経過により相続人の不存在が確定します。
その後、被相続人と特別の縁故があった人(被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別縁故があった者)から請求があった場合、家庭裁判所は、特別縁故者に対して相続財産の全部または一部を与えることができます。
特別縁故者からの請求がなかった場合、分与の申立てがあったがその申立ての却下が確定した場合、あるいは特別縁故者への相続財産分与が一部にとどまり残余財産がある場合には、その相続財産は国庫に帰属することになります。
ただし、相続財産が不動産(区分建物を除く)であって共有者がいる場合には、特別縁故者の不存在が確定することで、その不動産の持分が他の共有者に帰属することになります。
<ここがポイント!>
☑ 特別縁故者もしくは国庫あるいは他の共有者のものとなる
相続人不存在までの流れ
家庭裁判所における相続人不存在確定までの流れは以下のとおりです。これらの手続きを経て相続人不存在が確定するまでには、最低でも13ヶ月の期間が必要となります。
相続人不存在確定までの流れ
<手続の解説>
① 相続人不存在と相続財産法人
相続人不存在の場合、相続財産は法人となります。その後、相続財産の管理、清算のために相続財産管理人が選任されます
② 家庭裁判所による相続財産管理人選任の公告
相続財産を管理するため、家庭裁判所は利害関係人等の請求により、相続財産管理人を選任して、その旨を公告します。
なお、相続財産管理人選任の公告後2ヶ月間は、相続財産を保存しながら相続人の出現を待ちます
③ 相続財産管理人による債権申出の公告
②の公告の期間内に相続人が出現しない場合、相続財産管理人は相続債権者、受遺者に対して、2ヶ月以上の期間を定めて、債権の申出をなすべき旨の公告をします。
なお、相続人の捜索はこの期間中も引き続きおこなわれます
④ 家庭裁判所による権利主張催告の公告
相続債権者、受遺者に対する債権申出公告期間が経過しても、なお、相続人が出現しない場合は、相続財産管理人の請求によって、家庭裁判所は6ヶ月以上の期間を定めて権利主張催告の公告をおこないます。これが最後の相続人捜索の手続きです
⑤ 相続人である権利を主張する者がないとき
この期間内に相続人である権利を主張する者が現れないときは、相続人の不存在が確定し、相続人の権利は消滅します
⑥ 特別縁故者分与申立て
相続人不存在の確定後3ヶ月以内は特別縁故者による相続財産分与の申立てが認められます
⑦ 相続財産の帰属先
特別縁故者の存否、相続財産が共有財産であるかどうかにより、相続財産は特別縁故者、国庫または共有財産の他の共有者に帰属することになります
相続人の不存在が確定した場合
相続人の不存在が確定した場合の効果は、特別縁故者がいるかどうかによって変わってきます。もし、特別縁故者の相続財産分与が認められれば、相続財産は特別縁故者に帰属します。
これに対して、特別縁故者がいなかったり、いても分与の申立てが認められなかった場合は、国庫に帰属します。
なお、相続財産が不動産の共有持分である場合、共有者の1人が死亡して特別縁故者を含む相続人がいないときは、その共有持分は他の共有者に帰属することになります。
ただし、相続財産がマンションなどの区分建物である場合、区分所有法の規定により、他の共有者への帰属の適用を排除しているので、専有部分と敷地利用権は一体として特別縁故者に分与されるか、国庫に帰属します。
これは、もし区分建物で他の共有者への帰属を認めてしまうと、専有部分と敷地利用権が別人に帰属して、結果的に分離処分したのと同じことになり、区分建物の分離処分禁止の原則に反するからです。
よって、区分建物の共有者は、たとえ相続人が不存在であっても共有持分を取得することができないので注意が必要です。
<ここがポイント!>
☑ マンションなどの区分建物では他の共有者に帰属しない
特別縁故者への不動産の名義変更登記
相続財産に不動産が含まれていた場合に、特別縁故者の相続財産分与の審判が確定したら、不動産の所有者を特別縁故者名義に変更する必要があります。
この場合の登記申請は、特別縁故者が単独でおこなうことができます。
必要書類
☑ 確定証明付審判書正本
☑ 特別縁故者の住民票
登録免許税
☑ 当該不動産の固定資産税評価額の2%(1000分の20)
他の共有者への名義変更登記
共有者の1人が相続人なくして死亡し、特別縁故者の不存在確定により他の共有者へ持分が帰属した場合、他の共有者への持分移転登記をしなければいけません。
この場合の登記申請は、相続財産管理人と共有持分を取得した者との共同申請となります。
必要書類
☑ 当該不動産の登記済権利証または登記識別情報
☑ 相続財産管理人の印鑑証明書
☑ 共有者の住民票
☑ 相続財産管理人の選任審判書
登録免許税
☑ 当該不動産の固定資産税評価額の2%(1000分の20)
相続人不存在と司法書士
相続人不存在の場合、家庭裁判所に相続財産管理人選任の申し立てをしなければいけませんが、申立書に添付する戸籍等はかなりの量が必要です。
この点、司法書士は単に申立書を作成するだけでなく、添付書類である戸籍等の収集を代行することができます。
また、相続人不存在が確定した場合、特別縁故者や他の共有者への不動産の名義変更手続きもおこなうことができます。よって、相続人がいるのかどうか明らかでない場合は、お気軽にご相談ください。
<ここがポイント!>
☑ 相続人がいるかどうかわからない場合は司法書士にご相談ください
関連ページ
☑ 相続財産管理人選任の申立て
☑ 不在者財産管理人の選任
☑ 失踪宣告の申立て(不在者、行方不明者)