自由財産拡張の申し立てと非免責債権

自己破産の申し立てをしたからといって、必ずしも免責が認められるわけではありません。

なお、自己破産でいう免責というのは、借金の支払義務が法的になくなることです。

極端な話ですが、免責が認められても借金があること(あったこと)に変わりはありませんので、破産手続きがすべて終了した後(つまり、免責確定後)に、自分の意思で特定の借金についてだけ(たとえば親族からの借金)を返済することは可能です。

破産法上では、破産手続開始の申し立てと免責の申し立ては別々ものとされています。

なぜなら、同法では、破産手続開始の申し立てをした場合、免責許可の申し立てを、「することができる」と規定しているからです。

よって、破産手続開始の申し立てをしたからといって、必ずしも免責許可の申し立てをしなければいけないというわけではないのです。

ただし、同法は、破産手続開始決定の申し立てがあった場合には、免責許可の申立てもされたものとみなすとも規定しているので、特に反対の意思表示をしない限りは自動的に免責許可の申立てもされたものとして扱われます。

実務上でも、最初から免責許可の申し立てをしないという反対の意思表示をすることはほとんどなく、当職も今までにそのような申し立てをしたことはありません。

とはいえ、法律上は破産手続開始の申立てと免責許可の申し立ては別物とされています。

そもそも、免責不許可事由が存在するからといって、形式的判断で免責不許可決定が出されるわけではありません。

この点については、破産法上でも裁判所の裁量免責を明文で規定しています。

つまり、裁判所は、破産に至った経緯やその他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認められるときは、たとえ免責不許可事由があっても、免責許可の決定をすることができるわけです。

よって、仮に、ギャンブルや浪費等の免責不許可事由があっても、その程度が低い場合ややむを得ず免責不許可事由に該当する行為をおこなってしまった場合等で、裁判所の裁量免責が見込まれるような場合には、まずは破産の申し立てをしてみることが大切です。

また、破産法には具体的な規定はありませんが、免責不許可事由が存在し、裁量免責も難しそうな場合に、裁判所が管財人を選任して、その管財人が破産者の免責不許可事由を観察するという運用をおこなっているところもあります。

これを免責観察型といいますが、この手続きでは毎月、破産者に家計簿、収支表等を管財人に提出させ、管財人が破産者の生活状況を観察したうえで、積立状況や生活状況に問題がなければ、管財人の意見に基づいて裁判所が裁量免責を認めます。

しかしながら、それでも免責不許可が明らかな場合というのはあるわけですが、そういった場合にどういった手続きを選択すべきかが問題となります。

もし、債務者に安定収入があるのであれば、免責不許可事由がない個人再生という手続きを裁判所に申し立てることを検討します。

個人再生では、原則的に借金総額の5分の1(ただし、最低100万円)を3年(例外的に5年)で返済できれば、残りの借金についての支払義務は免除されます。

また、裁判所に申し立てをしないで、各債権者との任意和解(任意整理)も可能性としてはないわけではありません。

しかし、いずれの手続きも安定収入が条件なので、すでに支払不能状態に陥っている場合には利用することができません。

よって、支払不能状態に陥っている場合であれば、たとえ免責不許可の可能性が高くても、取りうる手段としては破産の申立てしかないということになります。

実際には、かなり弾力的な運用がされているので、免責が認められないということはほとんどありません。

万が一、免責不許可決定が出ても、債権者も破産者から取り立てができるとは思わないでしょうから、不良債権として処理する可能性も十分にあります。

旧破産法では、自由財産に該当しない財産を破産者の手元に残すためには、破産財団からの放棄という手段しかありませんでした。

そのため、特定の財産を破産財団から放棄し、破産者から対価の破産財団の組み入れを求めないことによって、破産者の手元に財産を残すという運用がおこなわれていました。

また、破産者が特に必要とする財産については、その対価として相当の金額を破産財産に組み入れることを条件に、特定の財産を破産財団から放棄するといった運用もおこなわれてきました。

しかし、新破産法では、新たに自由財産拡張の申し立てという制度が認められたため、破産財団からの放棄という運用をする必要がなくなりました。

とはいえ、破産財団からの放棄という手法が全く使えなくなったわけではなく、新たに設けられた自由財産拡張の申し立てと併用することも可能とされており、実際にそのような運用をしている裁判所にあるようです。

なお、自由財産拡張の申立てというのは、破産者側から特定の財産を破産手続の中で処分されない自由財産にして欲しいと申し立てをすることです。

この自由財産拡張手続については、全国の裁判所で統一された書式があるわけではなく、各地の裁判所がその実情に応じて運用しています。

また、どういった場合に自由財産拡張が認められるかの基準についても、各地の裁判所で運用が異なるので、申立てをする前は事前にその裁判所に運用の確認をしておいた方がよいでしょう。

具体的な申し立て方法は、自由財産として拡張して欲しい財産と法律上当然に自由財産とされている財産を表示して、その価格を記載して申し立てる必要があります。

申立てのタイミングとしては、破産手続開始決定後においても可能ですが、実務上は自己破産の申し立てと同時にされることが多いです。

申し立てがあると、破産手続開始決定が確定した日から1ヶ月が経過する日までの間に、破産者の生活の状況、破産者が保有する自由財産の種類および額、破産者の収入見込み等を考慮して裁判所が決定します。

なお、裁判所が決定をする際は、破産管財人の意見を聴かなければいけないとされているので、実務上も破産管財人の意見に従った決定がなされることが多いです。

自由財産拡張の申し立てがあった場合、管財人は当該財産の破産手続開始決定時の価格を調べて、その財産を評価します。

そして、管財人が破産者から改めて自由財産を拡張する必要性等を聴き、拡張すべきかどうかを判断し、裁判所に管財人としての意見を伝えます。

とはいえ、拡張を認めるかどうかについて客観的な基準がないとなると、管財人によって拡張が認める意見を出したり、逆に認めなかったりしてしまい、破産者側も事前に拡張が認められるかどうかの予想を立てることが難しくなります。

そうなると、破産者の生活再建にも影響が出てくるので、多くの裁判所においては、あらかじめ一定の運用基準を決めており、その基準に従って管財人や裁判所が拡張の是非を判断しています。

具体的な運用基準として考えられるものとしては、個々の財産の評価額が20万円を超えていても、総額が99万円を超えていない場合には、特に拡張を認めることが相当でないという事情がない限りは自由財産として処分しないという運用があります。

これに対して、個々の財産の評価額が20万円を超えた場合には、管財人が相当と認めない限り、原則的に自由財産とは認めず、破産財産に組み込んだ上で換価するという運用も考えられます。

なお、千葉地裁における運用について知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。

拡張の申し立てが認められなかった場合、破産者はその決定に対して即時抗告をすることができます。

これに対して、拡張が認められた場合は、その決定に対して破産管財人や債権者は争うことはできません。

ところで、過払い金も破産者の財産なので、その額によっては破産管財人によって配当手続きに回されたり、拡張の申立てによって破産者が自由に処分することができるかもしれません。

よって、多額の過払い金を回収した場合には、場合によっては自由財産拡張の申し立てをすることで、生活再建資金に回せる可能性もあります。

一般の方が抱く自己破産のイメージでは、家財道具などに「差押え」の札がペタペタと貼られ、日常生活に欠かせない物までも処分されてしまう場面が浮かぶと思います。

しかし、実際にはそういったことはなく、ほとんど価値のない家財道具は差し押さえの対象にはなりませんし、実際に家まで来て家財道具等の調査がされることは基本的にありません。

そもそも、破産法では自由財産というものが規定されています。

自由財産とは、破産者の財産のうち、破産手続開始決定後も破産管財人が処分する財産とはされず、破産者にその処分が許された財産をいいます。

なぜ、自由財産が規定されているのかと言いますと、個人の自己破産において、すべての財産が処分されてしまうと、破産後の生活に支障をきたし、その経済的更生を図ることができなくなってしまうおそれがあるからです。

よって、個人の破産者について経済生活の再生の機会を確保するという観点から、個人の一定の範囲の財産を自由財産としているわけです。

では、破産法で規定されている自由財産にはどういったものがあるかを見ていきます。

まずは、破産手続開始決定後の原因によって発生した財産については処分の対象となりません。

これは、破産手続開始決定時に破産財団の範囲を固定し、破産手続開始決定後に破産者に帰属するようになった財産は破産財産から除外されるからです。

具体的には、破産手続開始決定後に発生した相続によって、破産者が相続財産を取得しても、それについては処分の対象になりません。

また、99万円までの現金や金銭以外の差押禁止財産については破産管財人によって処分されない自由財産とされています。

差押禁止財産には、日常生活に欠かせない衣服、寝具、家具、台所用品、畳および建具や1ヶ月の生活に必要な食料、燃料等があります。

この他にも、お給料から税金等を控除した金額の4分の3相当部分(ただし、給料から税金等を控除した金額が44万円を超える場合には33万円だけが差押禁止債権)、生活保護、児童手当、老齢年金を受け取る権利は自由財産となります。

なお、ここでいう99万円の現金というのは、あくまでもタンス預金のような形で現金そのものを自宅等で保有している場合を指すので、銀行の口座に預入をしている場合は原則対象外となります。

よって、預金口座に99万円まで預け入れしている場合は原則処分の対象になると考えられますが、この辺については各地の裁判所によって運用がかなり異なるのが実情です。

例えば、ある裁判所の運用では現金が99万円以下で、それ以外の預金や保険等の個別資産ごとの評価額が20万円未満であり、かつ、現金その他の各財産の評価額の合計が99万円以下の場合には、破産者に按分弁済を求めず、同時廃止による処理をおこなっているところもありますが、

破産者が申告した現金が99万円以下であっても、破産者が他に現金を有しているかどうかは、本来、管財人の調査をしてみなければわからないとして、原則として、裁判所が管財事件の最低予納金である20万円を破産者が用意できるかどうかによって、管財事件にするか同時廃止事件にするかを決めているところもあります。

いずれにせよ、同時廃止で済むには、あくまでも申立書の記載から破産者の財産の内容や範囲が明確であるという大前提があるので、個人であっても個人事業主であったり、その他の事情から財産が存在する可能性が考えられるような場合には破産管財人の調査が必要との判断になる可能性があります。

そういった場合には、たとえ申立書に記載されている財産が少ない場合であっても、同時廃止ではなく破産管財人を選任してきちんと調査した上で、破産者の財産の中に処分しなければいけないものがあるかどうかを調べることになるなります。

なお、千葉地裁管轄においては、おおむね20万円以上の価値のある財産を保有している場合には、処分の対象になる可能性がありますが、こういった場合は自由財産拡張の申し立てというものをすることによって処分を免れることができる可能性があります。

自由財産拡張については次回以降に書きたいと思います。

今までの経験上、処分されると今後の生活に支障をきたすというものであれば、裁判所がそういった財産を処分をせずに破産手続きを進めることは決して珍しいことではありません。

自己破産では、借金の原因がギャンブルや浪費だと免責が認められない可能性があると言われていますが、実際のところはほとんどの場合で免責が許可されます。

よって、どういった理由で借金が増えたにせよ、どうにもならなくなってしまったら自己破産を検討してみる価値はあります。

ただし、破産法でどういった行為が免責不許可事由に挙げられているのかを事前に知っておくことも大切だと思いますので、以下に列挙してみます。

1. 財産隠匿行為等

2. 債務負担、廉価処分

3. 偏頗行為

4. 浪費等

5. 詐術

6. 帳簿隠匿行為等

7. 虚偽の債権者名簿の提出等

8. 説明拒否行為等

9. 職務妨害行為等

10. 再度の免責申し立て

11. 義務違反行為

財産隠匿行為というのは、債権者を害する目的で、自分の財産を隠したり減少させたりすることです。

また、破産手続きを遅らせる目的で、著しく不利益な条件で借金をしたり、カード等で商品を購入し、それを著しく安い金額で換金したりする行為も許されません。

偏頗行為というのは、ある債権者に対する借金についてだけ返済をする行為で、たとえば自動車ローンだけを返済し続けていた場合です。

業務および財産状況に関する帳簿や書類、その他物件を隠したり、偽造したりする行為も許されません。

債権者一覧表に虚偽の記載をした場合も免責不許可事由に該当します。

裁判所からの説明を拒んだり、嘘の説明することもダメで、不正の手段によって破産管財人の職務を妨害することも該当します。

なお、前回の免責確定から7年以内の申立ても不許可事由となります。

最後は、破産者が説明義務を果たさなかったり、重要な財産を意図的に開示しなかったり、裁判所の調査に協力しなかったりすると免責不許可事由に該当します。

以上が、破産法が列挙している免責不許可事由になりますが、もともと免責が認められていない債権も存在します。

税金や罰金は自己破産をしても支払義務を逃れることはできません。

また、破産者の故意または重大な過失に基づく損害賠償金も免責の対象から外れました。

離婚に伴う養育費等については、すでに支払期限が到来したものについても免責の対象にはなりません。

つまり、養育費等は既発生、未発生を問わず、支払義務が残ることになります。

よって、自己破産をしても養育費の支払義務は残り続けますので、その他の借金の支払義務がなくなったことで、養育費を支払える目途が付くのであれば、法的には過去に払えなかった分を含めて支払う必要があります。

なお、ここでいう養育費等の「等」にどういったものが含まれるかですが、夫婦間の協力および扶助の義務、婚姻費用分担の義務、子の監護に関する義務、親族間の扶養義務です。

ところで、債権者一覧表に記載漏れがあった場合についてですが、破産法では破産者が知っているにもかかわらず債権者名後に載せなかった場合には、その債権者は免責に対する意見を述べる機会が奪われてしまうので免責の対象が及ばないとされています。

ただし、債権者が破産手続開始決定があったことを知っていた場合には、この債権者は破産手続きに参加するべきで保護する必要はないので、免責の対象に含まれますし、破産者が知らずに債権者の記載漏れをしてしまった場合は、破産法上は免責の効力が及ぶことになります。

免責の対象にならないものについては、法律で規定されている以上、どうすることもできませんが、免責不許可事由に関しては、かなり裁判所が柔軟な運用をしています。

つまり、形式的には免責不許可事由に該当するような行為があったとしても、裁判官の裁量で免責を認めていることが非常に多いということです。

これは、形式的な運用をして、支払いができなくなった破産者の免責を認めないと、破産者が生活再建することができず、人生をやり直すチャンスを奪ってしまうからです。

よって、よほど意図的な行為がない限りは、たとえ免責不許可事由があっても、裁判官の裁量で免責が認められる可能性はあると思われます。

なお、免責不許可事由に害する行為がある場合で、本人に安定した収入があるのであれば、自己破産ではなく個人再生を選択するというのも一つの選択肢とあり得ます。

なぜなら、個人再生は、借金は大場にカットされますが、今後も返済をしていく手続きに変わりはないので、自己破産のような免責不許可事由に相当する規定がないからです。

そのため、ギャンブルや浪費が激しくても、現在は定職に付いているような場合は、初めから自己破産ではなく個人再生を選択することもあります。

ただ、安定収入がない場合は、個人再生は見込めませんので、自己破産を申し立ててみるしかありませんが、当事務所の案件で、これまでに免責不許可になったことはありませんので、どうにも返済ができずに行き詰って困っている方はお気軽にご相談ください。

なお、自己破産は本人の居住地の裁判所に申し立てをする必要があるので、当事務所で対応できるのは千葉県近郊となりますので予めご了承ください。

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