医療行為の同意権

認知症等を理由に成年後見人を付けた場合、医療行為との関係はどうなるのでしょうか。

 

この点、成年後見人には医療や診療を受ける契約を締結する権限はありますが、医療行為に対する同意権はないとされています。

 

これは、医療行為の同意が法律行為とはいえないからで、また、医療行為自体が極めて一身専属性の高い行為だからです。

 

つまり、医療行為の同意については、本来、成年後見業務の範囲外ではあるのですが、成年後見人に就任した以上は避けては通れない問題といえます。

 

なぜなら、現実的には被後見人(本人)自身は、すでに痴呆等により医療行為に同意する能力がなくなっている場合が多いからです。

 

現実的には、軽微な医療行為については病院側から同意を求められることも珍しくなく、

 

予防注射や検査のための採血等の軽微な医療行為については成年後見人が同意しているケースが見受けられます。

 

また、手術をしなければいけない場合等で、家族の同意を得られるのであれば、本人の家族や親族の同意を取り付けることになります。

 

なお、たとえ緊急の手術であっても、本人が自分の意思で拒否しているのであれば、それに反して手術をすることはできません。

 

手術等の重大な医療行為であれば、家族や親族の同意が必要になるのは当然ですが、

 

 健康診断等の軽微な医療行為にまでいちいち家族の同意を取るのは手続き的にも煩雑となり現実的とはいえません。

 

確かに、成年後見人には形式的には同意権はありませんが、だからといって本来必要であるはずの医療行為について同意せず、

 

結果として、本人が満足に医療行為を受けることができずに放置されるのは決して望ましいことではありません。

 

そこで、療養看護の職務をおこなう成年後見人には、軽微な医療行為に関する同意権を付与するべきだという見解が有力になってきているのも事実です。

 

次に、尊厳死との関わりをみていきます。

 

仮に、本人が認知症等になる前に尊厳死の意思を表明していたとして、それが書面等により明らかな場合があったとします。

 

しかしながら、上述したとおり、成年後見人には軽微な医療行為の同意権すら明確に規定されているわけではないので、

 

たとえ、被成年後見人の精神状態が正常であったときに、尊厳死を希望する意思を表明していたとしても、それをもって成年後見人が延命治療を拒否することはできません。

 

以上からいえることは、成年後見人には医療行為に対する法的な同意権がありませんが、実際の後見業務をおこなう上ではそれが原因で諸々の不都合が生じているのも事実です。

 

そこで、一定の医療行為に対しては、成年後見人にも同意権を認めるべきなのかどうかを慎重に検討し、

 

認めるべきであれば速やかに実態に合った法改正を進めていく必要があるものと考えます。

 

 

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