休眠担保権の抹消と公示催告、除権決定による抹消

抵当権の登記が大昔にされたまま、そのまま放置されていることがあります。

 

すでに返済が終わっていて、抵当権者と連絡が取れるのであれば、通常の共同申請で抵当権抹消登記を申請すればよいのですが、

 

抵当権者が行方不明で、共同申請できない場合、方法としては裁判所による除権決定と裁判所の関与なしで抹消できる休眠担保権の抹消手続きがあります。

 

今回は休眠担保権について説明したいと思いますが、適用の要件は以下のとおりです。

 

1. 先取特権、質権または抵当権に関する登記の抹消を申請する場合であること

 

2. 登記義務者の所在が知れないため、共同申請による抹消登記の申請ができないこと

 

3. 債権の弁済期から20年が経過していること

 

4. 被担保債権の利息および損害金の全額に相当する金銭が供託されたことを証明する情報を提供すること

 

所在が知れないといえるためには、住民票や戸籍等の調査、警察官や民生委員、近隣住民からの聞き込み等をしても、現在の所在が分からず、死亡の有無も不明な場合です。

 

また、死亡しているのは分かっていても、相続関係が不明な場合、相続人は戸籍から明らかでも所在が分からない場合も該当します。

 

なお、抵当権者に失踪宣告がなされても、抵当権者の相続人の所在が明らかであれば、休眠担保権の要件は満たしません。

 

抵当権者が法人の場合にも適用はあり、登記簿に法人の記録がなく、閉鎖登記簿も抹消されて、その存在を確認できない場合は要件を満たします。

 

これらの行方不明を証明する書面としては、抵当権者が登記上の住所に居住していないことを市区町村長が証明した書面や被担保債権の受領催告書が不到達であったことを証する書面になります。

 

しかし、こういった証明書は必ずしも市区町村長が作成してくれるわけではないので、

 

そういった場合には警察官が抵当権者の所在を調査した結果を記載した書面や民生委員が登記上の住所に抵当権者が居住していないことを証する書面でもよいとされています。

 

抵当権者が法人の場合、申請人が当該法人の管轄法務局等で調査した結果を記載し、それに印鑑証明書を添付したものでOKです。

 

弁済期から20年が経過していることの証明は、登記上弁済期が記載されていれば特に証明は不要ですが、登記上弁済期が明らかでない場合は、当時の契約書等の書面を提出します。

 

契約書等の書面がなかったり、あっても弁済期が記載されていなければ、債務者の申述書(印鑑証明書付)を提出すればOKです。

 

供託する金額については、供託時点において現存する金額ではなく、登記上から推知できる最高額になります。

 

もし、登記上の債権額が真実の債権額と異なっていたり、債権の一部についてはすでに弁済していても、

 

登記上の債権額に満たない金額を供託して抵当権を抹消することはできません。

 

利息と損害金については、もし、その定めがなければ年6分の割合で計算した金額を供託しなければならず、利息に関する定めのみがある場合は、その定められた利息の利率で利息と損害金を計算しなければいけません。

 

これに対して、損害金に関する定めのみがある場合は、利息は年6分で計算し、損害金はその定められた利率で計算することになります。

 

なお、1個の債権の一部についての抵当権の場合、たとえば、500万円の債権のうち400万円を担保しているような場合、

 

その担保権は最後の400万円を担保するのが原則なので、500万円全額を弁済しなければいけないことになります。

 

以上をまとめると、抵当権者が行方不明の場合でも、債権の弁済期から20年が経過している場合は、

 

所有者は弁済期を証する情報、抵当権者の行方不明を証する情報、供託されたことを証する情報を提供することで、所有者が単独で抵当権の抹消登記を申請することができるということになります。

次は、登記義務者の所在が知れない場合の単独抹消についてです。

 

具体的な方法としては

 

1. 公示送達によって判決を得て抹消する方法

 

2. 公示催告、除権決定を得て抹消する方法

 

があります。

 

判決によって抹消する場合は、所有権に限らず、所有権以外の担保権や用益権も対象となり、設定、保存、移転、変更、更正等についても抹消が認められています。

 

これに対し、公示催告、除権決定によって抹消する場合の対象は抹消登記に限定されていますが、対象となる権利は所有権に限られません。

 

これは、抹消登記手続きをおこなっても、従前の権利関係の表示に戻るだけで、新たな権利関係が創出されるわけではないからです。

 

つまり、所在が不明になるような登記義務者であれば、自己の負担する義務の履行について関心がないものと推測でき、

 

そうであるならば簡易迅速に登記権利者に抹消手続きをできるようにするのが公平と考えられているわけです。

 

公示催告、除権決定の具体的手続きは、非訟事件手続法が規定している公示催告の申し立てをおこなう方法によります。

 

実務上、公示催告では官報に2回掲載され、少なくとも2ヶ月の掲載期間の間に権利を争う申述をさせるチャンスを与えます。

 

そして、期間内に申述がなければ除権決定が出され、その旨が官報に掲載されます。

 

なお、登記義務者の所在が知れないかどうかは、申立人の主張・立証に基づき公示催告の申し立てを受けた裁判所が判断します。

 

たとえば、除権決定による抹消は所有権であっても担保権であっても抹消登記であれば対象となるので、

 

架空の者の名義でなされた所有権移転登記を除権決定で抹消し、売主名義に戻すことが可能となります。

 

また、賃借権者が法人である場合に、当該法人の代表者事項証明書が何らかの理由で交付されない場合、

 

除権決定を得ることで当該賃借権を抹消することができます。

 

ところで、除権決定の他に被担保債権が消滅したことを証する情報を提供して、先取特権、質権、抵当権を単独で抹消することができます。

 

これは、登記権利者が被担保債権が消滅したことを証する情報提供できるのであれば、

 

登記義務者が所在不明の間に抹消手続きを認めても、登記義務者を害することなないからです。

 

被担保債権が消滅したことを証する情報としては、債権証書と被担保債権および最後の2年分の利息その他定期金(損害金を含む)をすべて返済したことが証明できる情報となります。

 

よって、当時の書類が何も残っていないような場合は、この方法を取ることはできません(現実的にも当時の書類が残っていることは少ないようです)。

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