建物明け渡し訴訟の管轄

請求額が140万円以下であれば簡易裁判所の管轄となり、140万円超の場合は地方裁判所の管轄になるのが原則で、これを事物管轄といいます。

 

ただし、不動産に関する訴訟については、請求額に関わらず地方裁判所にも管轄が認められています。

 

この結果、建物明け渡し訴訟であれば、請求額が140万円以下であっても、簡易裁判所と地方裁判所の両方に管轄が認められています。

 

よって、訴える側としては、自分の都合がよい方に提訴することができますが、ここで1点注意が必要です。

 

それは何かというと、もし、簡易裁判所に提訴しても、被告から地方裁判所でやりたいと申し立てがあると、必ず地方裁判所に移送されてしまうというルールがあるのです。

 

これは、裁判所の裁量による移送ではなく、被告からの申し立てがあれば必ず地方裁判所に移送されてしまうので、必要的移送と言われています。

 

次に、どこの簡易裁判所もしくは地方裁判所に提訴しなければいけないのかをみていきます。

 

まず、原則的には、被告の住所地を管轄する裁判所に提訴することができます。

 

ただし、被告が遠方に住んでいる場合、被告の住所地の裁判所にだけしか提訴できないとすると、原告の負担はかなり大きくなってしまいます。

 

なぜ、被告の住所地が原則かといえば、被告の立場からすると、提訴されたら自らの意思によらず強制的に訴訟手続きをしなければいけなくなります。

 

そのため、被告が訴訟手続きに参加しやすいように被告の住所地に管轄があるとされており、これを普通裁判籍といいます。

 

ただし、普通裁判籍というからには普通ではない裁判籍もあるわけで、それを特別裁判籍といいます。

 

特別裁判籍はいくつかあるのですが、まずは財産権上の訴えについては義務履行地にも管轄があるとされています。

 

建物の賃貸借の場合、当事者間で事前に賃料の支払場所について合意があればその場所が義務履行地になります。

 

もし、合意がなければ法律の規定に従い債権者の現住所が義務履行地になるので、その結果、債権者である貸主の住所地にも管轄があることになります。

 

通常、賃貸借契約書には、「賃料は、賃貸人の住所地に持参して現金にて支払う」とか、「賃料は、賃貸人指定の口座に振り込むことにより支払う」等と書かれています。

 

持参する場合は、上記のとおり賃貸人の住所地が管轄となり、振込の場合はその口座がある金融機関の営業所所在地にも管轄があります。

 

これ以外の特別裁判籍として、不動産の所在地にも管轄があります。

 

これは当然といえば当然ですが、不動産にいちばん近い裁判所にも管轄があるわけです。

 

あとは、合意管轄というものがあって、これは当事者双方が合意して決めた裁判所にも管轄を認めるというものです。

 

賃貸契約書には、一般的に「本契約について紛争が生じた場合には、賃貸人の住所地を管轄する裁判所を第一審の裁判所とすることに合意する」等と書かれています。

 

この場合、単に裁判所と規定されているのであれば、賃貸人は訴額に関わらず、自分の住所地の簡易裁判所もしくは地方裁判所に提訴することができます。

 

これに対し、「簡易裁判所を第一審の裁判所とすることに合意する」と規定されていれば、たとえ訴額が140万円以上であっても簡易裁判所に提訴できます。

 

以上のようにして、建物明け渡し訴訟の管轄は決められているのですが、まったく管轄のない裁判所に提訴した場合でも被告が特に管轄がないことを争わなければ、そのままその裁判所に管轄権が生じることがあり、これを応訴管轄といいます。

 

よって、訴状を受け取った裁判所もまったく法律上の管轄が認められなくても、原告の意思を確認したうえで、原告がその裁判所での裁判を望むのであれば、訴状をそのまま被告に送達し、被告の応訴の意思をみるといった運用が行われています。

 

以上からわかるとおり、司法書士の訴訟代理権は簡易裁判所に限定されるので、建物明け渡し訴訟を司法書士に委任する場合、被告の申立てによって地方裁判所に移送される可能性があるわけです。

 

とはいえ、一般的な明け渡し訴訟では、借主である被告は資金的余裕がないからか、答弁書も提出せずに即結審することも珍しありません。

 

よって、被告が争ってくる見込みが低いのであれば、司法書士を代理人にして簡易裁判所に提訴しても、地方裁判所に移送される可能性は低いと思われます。

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