遺言信託

信託というのは、法律上ある者(委託者)が、相手方(受託者)に財産権(信託財産)を帰属させつつ、同時にその財産を一定の目的(信託目的)に従って、委託者もしくは他人(受益者)または社会のために管理処分しなければいけないという拘束を加えることをいいます。

また、信託はその目的により2つに分かれます。

一つは、信託の目的が「祭祀、宗教、慈善、学術、技芸」その他の公益を目的にする場合の公益信託、もう一つがそれ以外を目的とする私益信託の2つです。

この信託は当事者間の契約で設定するだけではなく、自分の死後のために遺言書で設定することが認められており、これを遺言信託といいます。

実際に利用されることが多いのは、残された妻や子が財産管理能力に乏しいために、被相続人が有する現金や不動産等の相続財産を管理運用能力に優れた自然人もしくは法人に委託するケースです。

そうすることで、財産の一部やその収益金を妻や子のために支給してもらうことが可能となり、被相続人の死後、残された家族の収入を確保し、生活基盤を安定させることができるようになります。

また、遺言信託を活用することで、被相続人及びその祖先等の墓地の管理費や供養費を賄うこともできます。

遺言信託を利用するためには、民法上の遺言の要件を備えることは当然ですが、信託法の要件も具備しなければいけません。

信託法が定める要件は以下のとおり3つあり、これを信託の三大確定性といいます。

1. 信託目的

2. 受益者

3. 信託財産

まず、信託目的ですが、これについてはその目的が一定していなければいけません。

なぜなら、被相続人(亡くなった人)から信託を委託された受託者としては、信託の目的が定まっていないとどのように信託財産を管理処分したらよいかわからないからです。

そのため、被相続人は受託者が信託義務を遂行できる程度の行動の指針を定めておかなければなりません。

具体的には、自分が亡くなった後に、残された妻に生活費等の資金を支払ったり、未成年の子がいる場合には学費等を給付する等です。

次は、受益者と指定しておくことが必要です。

明確に受益者は誰それと書いておくのが望ましいですが、少なくとも受益者を確定できる程度に指示を与えておく必要があります。

よって、単に受益者を友人や親せきと記載してあるだけでは特定できていませんので、信託の要件を満たしませんが、遺言書の中に受益者に関する指示が全くない場合には、相続人を受益者とする意思があると推定できます。

なお、受益者が1名である場合に、その者が受託者となることは権利義務が同一となるので、信託法上認められていません。

3つ目は、信託財産の確定です。

遺言信託では、信託財産は被相続人の死亡時に金銭評価できる財産権として確定されたものである必要があります。

よって、金銭に換算できる物件や債権、著作権、特許権等であれば信託財産にすることができます。

また、信託財産が不動産である場合に、当該不動産に抵当権等の担保権が設定されている場合でも構いません。

以上の3要件の他に、受託者や信託期間等も定める必要があります。

受託者になれる者の制限は、破産者、未成年者、成年被後見人等のみですが、現実問題としては信託に関して専門的知識を有しているものを受託者にしておいた方が安全です。

もし、遺言書で指定された受託者が、信託の引き受けに応じない場合には、利害関係人の請求により、裁判所が受託者を選任します。

なお、遺言で公益信託を設定することもできますが、公益信託を引き受けるには、受託者が主務官庁の許可を受けることが必要なので、許可が得られないときを想定して、同じような目的を持つ別の公益法人に相続財産を寄付しておいた方が安全といえます。

公益信託であれ、私益信託であれ、今後は遺言信託を活用することで、相続財産をより有効に活用することができるのではないかと思われます。

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